近年の情報技術の発展に伴い、情報を適切に収集・管理し、その分析結果を有効に役立てる技術があらゆる分野において必須な時代となりました。アカデミアでは、大量のデータを収集・分析することにより研究を推進させる第4のパラダイムとしてのデータサイエンスの重要性が広く認識されるようになっています。また産業分野では、データの効果的な集積と活用による価値の創出が、産業競争力の強化に大きな役割を果たすようになりました。さらに急速に発展する人工知能技術は、一部の分野では人間の認識・判断能力を凌駕するレベルに到達しつつあります。このような技術的背景に基づいた社会環境の変化は、大学が輩出すべき人材像にも変革を促しています。
そこで、筑波大学ではデータサイエンス・リテラシープログラム(以下、DSLプログラム)を開設し、基礎的な情報リテラシーとコンピュータの利用技術の習得を目的とした「情報リテラシー」、および、データに基づく客観的な意思決定の考え方の習得を目的とした「データサイエンス」の2科目を全学一年次の必修科目として定めました。
本学のDSLプログラムは、数理・データサイエンス・AIに関する基礎的な能力の向上及びその機会の拡大を図ることを目的として文部科学省によって制定された「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定され、その中でも先導的で独自の工夫・特色を持つプログラムに対して与えられる「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)プラス」に選定されています。
(認定の有効期限:令和8年3月31日まで)
(認定の有効期限:令和8年3月31日まで)
参考
文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」
データサイエンス・リテラシー(DSL)プログラム取り組み概要
DSLプログラムの特長
特長① 2019度入学生以降の卒業時DSLプログラム履修率100%
筑波大学では、文系・理系だけでなく体育や芸術など、総合大学としては他に例を見ない幅広い学問分野に渡る分野を背景とする学生を擁しており、2019年度からはすべての分野における1年次の学生に対する必修科目として、「情報リテラシー(講義)」と「データサイエンス」を設定しています。全1年次生必修を念頭に、理学・工学分野だけでなく、文系や体育分野、芸術分野などの非理工系分野まで、全ての学士課程に対応可能で社会のニーズに合致する教材を作成し、全学で利用します。
特長② 実践力を重視したカリキュラム
DSLプログラムでは、講義と演習を組み合わせることにより、学生がより実践的に学べる授業を実施します。統計分析にとどまらず、データの収集、管理、分析といったデータサイエンスにおける一連のライフサイクルに関わる内容を一貫して教育するとともに、現実世界のデータを利用した演習を中心とした実践力を重視したカリキュラムとなっています。詳細はカリキュラムを御覧ください。
特長③ エヴィデンス(教育効果測定等)に基づく教材設計
学生授業評価アンケートのみならず、データサイエンスの学習動機や理解の客観評価を行う教育効果測定、民間企業における実務経験者を含む担当講師を対象としたアンケートを通して得られた、授業内容や学習の意欲・定着度などに関する情報をまとめ、共通科目「情報」推進室における教材の改善に努めています。データサイエンスに馴染みがない学生、より高度な学習を望む学生など、様々な分野の学生が、強い動機を持ってデータサイエンスの学修に取り組めるようなカリキュラムとなるよう工夫しています。
特長④ 多様な学生の興味と動機を高める様々な分野の導入ビデオ講義
データサイエンスに初めて触れる一年次学生を対象として、様々な学問分野におけるデータ活用事例をそれぞれの専門分野の教員が紹介するビデオ講義を取り入れています。ビッグデータや人工知能などの一般的な内容から、臨床医学データサイエンスに初めて触れる一年次学生を対象として、様々な学問分野におけるデータ活用事例をそれぞれの専門分野の教員が紹介するビデオ講義を取り入れています。ビッグデータや人工知能などの一般的な内容から、臨床医学やスポーツ分野における活用事例まで、現時点で13本のビデオ教材を有しており、様々な背景を持つ学生の学習動機および教育効果の向上に利用しています。また本ビデオ教材は、誰でも視聴可能な教材としてインターネット上でOCWとして提供しており、今後もさらなる充実化を目指します。詳細は、e-Learningをご覧ください。
本教育プログラムを通じて身につけることができる能力
データの利活用に関する講義および演習を通して、分析の目標設定、データの収集、前処理、分析、分析結果のフィードバックという、一連のデータサイエンスにおけるサイクルを一通り体験します。これにより、社会における諸問題を主体的に分析し、より良い社会の実現に向けた改善する能力を身につけることが可能です。AIに関する講義を通して、AI前提の社会で生き抜くために必須の知識を得ます。
実施体制
委員会 | 役割 |
「情報」専門部会長 | プログラムの運営責任者 |
「情報」専門部会 | プログラムの企画・充実・編成・改善並びに固定時間割の作成 |
「情報」推進室 | カリキュラムの策定と実施 |
実施科目と学習内容
修了要件
「情報リテラシー(講義)」(1単位)及び「データサイエンス」(2単位)の2科目3単位を取得すること。
単位取得要件
- 情報リテラシー(講義):試験、レポート課題などを総合的に評価し、A+~Dの評語が決定。C以上の評価で単位取得。
- データサイエンス:試験、レポート課題などを総合的に評価し、A+~Dの評語が決定。C以上の評価で単位取得。
実施科目 | 学習内容 |
情報リテラシー(講義) | 情報の基本概念と社会におけるコンピュータとインターネットの位置づけを理解した上で、コンピュータの原理と構成、ソフトウェアの原理、インターネットの仕組みなどについて学ぶ。 併せて、インターネットを安全かつ有意義に活用するために必要な情報倫理、情報セキュリティ、知的財産権に関する知識を学ぶ。 |
データサイエンス | データサイエンスの基礎的概念を理解し、コンピュータを利用した基礎的なデータ分析技術を学ぶ。 データの収集、データの管理、データの可視化、データの分析を通じて、データの理解と活用の手法を実践的に修得する。 先端的なデータサイエンスの事例に触れ、社会におけるデータの具体的な活用について理解する。 |
授業方法
情報リテラシー(講義)およびデータサイエンスは、全学1年次必修科目です。全学学生が履修できるように、情報リテラシー(講義)は27クラスの日本語科目及び1クラスの英語科目(開設科目一覧はこちら)、データサイエンスは50クラス分の日本語科目及び1クラス分の英語科目を開講しています(開設科目一覧はこちら)。データサイエンスにおいては、受講者の属性に合わせた学習難易度となるよう、三段階の難易度のモデルカルキュラムを準備し、理学・工学分野から非理工系分野まで、全ての学士課程に対応可能で社会のニーズに合致する教材を作成しています。さらに、全履修学生を対象とした教育効果測定や履修者アンケート、講師を対象としたアンケート、授業担当教員からの教材フィードバックの結果を教材設計に活用し、データサイエンスに馴染みがない学生、より高度な学習を望む学生など、様々な分野の学生に対応できるような教材となるよう工夫しています。
モデルカリキュラムとの対応
授業に含まれている内容・要素 | 授業概要 | ||||
(1)現在進行中の社会変化(第4次産業革命、Society
5.0、データ駆動型社会等)に深く寄与しているものであり、それが自らの生活と密接に結びついている ※モデルカリキュラム導入1-1、導入1-6が該当 |
日常生活に密接に結びついているデータサイエンスについて学ぶ。筑波大学の教員の専門性を活用し、情報分野のみならず、医学、スポーツ、社会、芸術、気象・防災などで活用されているデータサイエンスについても広く学ぶことにより、データサイエンスのモチベーションを高める。3本のビデオ講義「ビッグデータとIoT/CPS (Cyber-Physical System)」「人工知能と機械学習」「データ駆動型社会における津波高即時予測」を通して、データサイエンスの産業活用に関して学習するとともに、「現代サッカーボールの空力特性」「サッカーの上達にデータを生かす」を通して、学生に馴染みのある事柄におけるデータサイエンスを学習する。これらのビデオ講義は、講義中でも触れるとともに、学生はいつでもビデオ講義の受講が可能である。Society 5.0にも触れ、我々の生活でどのようにデータが活用されているかを理解する。 | ||||
授業科目名称 | 講義テーマ | ||||
データサイエンス | ビッグデータ、IoT、AI、ロボット (1、 5、 10) | ||||
データサイエンス | データ量の増加 (1) | ||||
データサイエンス | 第4次産業革命、Society 5.0、データ駆動型社会 (1) | ||||
データサイエンス | 複数技術を組み合わせたAIサービス (10) | ||||
データサイエンス | 人間の知的活動とAIの関係性 (10) | ||||
データサイエンス | データを起点としたものの見方、人間の知的活動を起点としたものの見方 (1、 10) | ||||
データサイエンス | AI等を活用した新しいビジネスモデル (10) | ||||
データサイエンス | AI最新技術の活用例 (1、 5、 10) | ||||
情報リテラシー (講義) |
計算機の処理性能の向上 (7) | ||||
(2)「社会で活用されているデータ」や「データの活用領域」は非常に広範囲であって、日常生活や社会の課題を解決する有用なツールになり得るもの ※モデルカリキュラム導入1-2、導入1-3が該当 |
授業概要 | ||||
集団と標本などのデータ分析に必要な知識を学び、全数調査と標本調査の違いについても理解する。標本調査において、無作為抽出の重要性についても理解する。受講学生に、自分自身のデータの提供を依頼し、講師が匿名化を適切に行なった上で学生にデータの提供を行い、データ分析を行う演習を行っている。「データサイエンス」授業の後半ではデータ分析を演習として行うが、そのための前処理の演習を行う。この演習を通して、1次データと2次データの違い、データの作成の手法、データの前処理の方法などを理解する。学生自身が何らかの仮説を立て、政府統計の総合窓口e-Statを用いて、分析に必要となるデータの探索を行い、そのデータを分析し、仮説検証、知識発見などを行っている。発展した内容として、ビデオ講義「生命科学とデータサイエンス」も受講 可能 である。 | |||||
授業科目名称 | 講義テーマ | ||||
データサイエンス | 調査データ、実験データ、人の行動ログデータ、機械の稼働ログデータなど (1、 2、 3、 4、 5) | ||||
データサイエンス | 1次データ、2次データ、データのメタ化 (2、 3、 4) | ||||
情報リテラシー(講義) | 構造化データ、非構造化データ (6) | ||||
データサイエンス | データ作成 (2、 3、 4) | ||||
データサイエンス | データのオープン化(オープンデータ) (3) | ||||
データサイエンス | データ・AI活用領域の広がり (2、 3、 4) | ||||
データサイエンス | 仮説検証、知識発見、原因究明、計画策定、判断支援など (1、 6、 7、 8、 9、 10) | ||||
(3)様々なデータ利活用の現場におけるデータ利活用事例が示され、様々な適用領域(流通、製造、金融、サービス、インフラ、公共、ヘルスケア等)の知見と組み合わせることで価値を創出するもの ※モデルカリキュラム導入1-4、導入1-5が該当 |
授業概要 | ||||
筑波大学教員によるビデオ講義により、情報学を始め、医療などの様々な分野のデータサイエンスの活用事例に関して学ぶ。具体的には、講義の初期段階で、ビデオ講義「ヒューマンインタラクション」「デジタル・ヒューマニティーズ—人文学と情報学の接点が導く新たな知識の世界」「臨床医学・社会医学とデータサイエンスーヘルスサービスリサーチの視点から」「セシウム137全球データベースおよび環境放射能データの検索と公開サイト」「データサイエンスと社会科学」を選択的に学ぶ。データ分析のサイクルについて学び、目的設定、分析計画、データ設計、データ収集などから構成されることを理解する。仮説の設定からはじめ、データの収集、分析、可視化、考察というサイクルを演習時に実際に行うことにより、理論だけでなく、実際の運用に関して理解する。さらに学生自身から収集したデータを分析することにより、実社会への応用に向けた準備を行っている。 | |||||
授業科目名称 | 講義テーマ | ||||
データサイエンス | データ解析:予測、パターン発見、最適化、シミュレーションなど (1、 6、 7、 8、 9、 10) | ||||
データサイエンス | データ可視化:複合グラフ、2軸グラフ、多次元の可視化、関係性の可視化など (6、 7、 8、 9) | ||||
データサイエンス | 特化型AIと汎用AI、今のAIで出来ることと出来ないこと、AIとビッグデータ (10) | ||||
データサイエンス | 認識技術、自動化技術 (10) | ||||
データサイエンス | データサイエンスのサイクル (9) | ||||
データサイエンス | サービス、インフラ、公共、ヘルスケア等におけるデータ・AI利活用事例紹介 (1、 5、 10) | ||||
(4)活用に当たっての様々な留意事項(ELSI、個人情報、データ倫理、AI社会原則等)を考慮し、情報セキュリティや情報漏洩等、データを守る上での留意事項への理解をする ※モデルカリキュラム心得3-1、心得3-2が該当 |
授業概要 | ||||
我々の生活で必須となる情報セキュリティ技術について学ぶ。適切にパスワードを設定することの重要性をはじめとして、SSL/TLSなどに使われている暗号技術について学ぶ。スパムメール、マルウェア、フィッシング詐欺、DDoS攻撃などの社会問題となっている攻撃に関しても理解を深め、インターネット利用に潜む危険性、特に、情報漏洩の危険性について理解し、安全に使用するための方法を学ぶ。個人情報保護法、EUの一般データ保護規則GDPR、研究倫理、データ倫理などの倫理的、法的、社会問題についても学び、データの活用における取扱いの重要性を理解する。収集したデータを安全に利活用する際に必要となる仮名技術、匿名技術についても学ぶ。ビデオ講義「人工知能における倫理的、法的、社会的問題」により、人工知能を活用する上で必要となる問題についても学ぶ。 | |||||
授業科目名称 | 講義テーマ | ||||
データサイエンス | ELSI(Ethical, Legal and Social Issues) (1) | ||||
データサイエンス | 個人情報保護、EU一般データ保護規則(GDPR)、忘れられる権利、オプトアウト (2) | ||||
データサイエンス | データ倫理:データのねつ造、改ざん、プライバシー保護 (2) | ||||
データサイエンス | AI社会原則(公平性、説明責任、透明性、人間中心の判断) (1) | ||||
データサイエンス | データバイアス、アルゴリズムバイアス (1、 2) | ||||
データサイエンス | AIサービスの責任論 (1) | ||||
情報リテラシー(講義) | 盗用 (3) | ||||
情報リテラシー(講義) | 情報セキュリティ:機密性、完全性、可用性 (3) | ||||
情報リテラシー(講義) | 匿名加工情報、暗号化、パスワード、悪意ある情報搾取 (3) | ||||
情報リテラシー(講義) | 情報漏洩等によるセキュリティ事故の事例紹介 (3) | ||||
(5)実データ・実課題(学術データ等を含む)を用いた演習など、社会での実例を題材として、「データを読む、説明する、扱う」といった数理・データサイエンス・AIの基本的な活用法に関するもの ※モデルカリキュラム基礎2-1、基礎2-2、基礎2-3が該当 |
授業概要 | ||||
質的変数、量的変数などデータの種類について学んだ上で、視覚属性とグラフの選び方の総論を学び、ヒストグラム、散布図、折れ線グラフなどの様々なデータの可視化手法を学ぶ。不適切な可視化の例について学び、自身で可視化を行う際の参考とする。質的データに関して、度数分布表の作成と視覚化の方法を学ぶ、クロス集計表やオッズ比について理解する。量的データに関して、ヒストグラムの作成法を学んだ上で、平均値、中央値、最頻値の違いを理解し、さらに分散、標準偏差などの記述統計量を学ぶ。二つのデータの間の相関係数の計算法やその解釈方法、移動平均や指数化などの時系列データの可視化手法を学ぶ。二つのデータの間の関係について学び、相関関係と因果関係の違いなどを理解する。特に、疑似相関や逆の相関、偶然の一致などの実社会で考慮すべき事柄について理解する。ビデオ講義「仮説検定入門」により、いつでも反復学習が可能である。 | |||||
授業科目名称 | 講義テーマ | ||||
データサイエンス | データの種類(量的変数、質的変数) (2) | ||||
データサイエンス | データの分布(ヒストグラム)と代表値(平均値、中央値、最頻値) (6、 7) | ||||
データサイエンス | 代表値の性質の違い(実社会では平均値=最頻値でないことが多い) (7) | ||||
データサイエンス | データのばらつき(分散、標準偏差、偏差値) (1、 7) | ||||
データサイエンス | 観測データに含まれる誤差の扱い (1、 3) | ||||
データサイエンス | 打ち切りや脱落を含むデータ、層別の必要なデータ (1、 3) | ||||
データサイエンス | 相関と因果(相関係数、擬似相関、交絡) (1、 8、 9) | ||||
データサイエンス | 母集団と標本抽出(国勢調査、アンケート調査、全数調査、単純無作為抽出) (1、 2) | ||||
データサイエンス | クロス集計表、分割表、相関係数行列、散布図行列 (6、 8) | ||||
データサイエンス | 統計情報の正しい理解(誇張表現に惑わされない) (6) | ||||
データサイエンス | データ表現(棒グラフ、折線グラフ、散布図) (6、 7、 8、 9) | ||||
データサイエンス | データの図表表現(チャート化) (6) | ||||
データサイエンス | データの比較(条件をそろえた比較)(7) | ||||
データサイエンス | 不適切なグラフ表現(不必要な視覚的要素) (6) | ||||
データサイエンス | 優れた可視化事例の紹介(可視化することによって新たな気づきがあった事例など)(9) | ||||
データサイエンス | データの集計、データの並び替え、ランキング、データ解析ツール (2-9) |
プログラムを構成する授業の内容・概要(数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラムの「選択」に相当)は下記の通りです。
授業に含まれている内容・要素 | 授業科目名称 |
統計及び数理基礎 | データサイエンス |
アルゴリズム基礎 | 情報リテラシー(講義) |
データ構造とプログラミング基礎 | 情報リテラシー(講義) |
時系列データ解析 | データサイエンス |
データハンドリング | データサイエンス |
データ活用実践(教師あり学習) | データサイエンス |